これから言う細かいことは置いといて、まず、とにかく、とりあえず、つるまいかだ - メダリストを、読んでください。
そして、合わないかもと思ったとしても、細かいことを読んで良いかもと少しでも思ったらさらに読んでください。よろしくお願いいたします。
本題、終わり。(まだ終わりません)
ここが好きだよメダリスト
「選択の軌跡/奇跡を証明する」物語であること
常に彼女と彼の前には、いくつもの選択肢が存在しています。何を選ぶ、何を選ばない、何を選べる、何を選べない、そしてたった一つ選んだその選択が間違っていないと証明するために、彼が全力で戦略を授け、彼女は全力で氷の上に軌跡を刻み、奇跡を証明する。メダリストは、そういう物語です。
こんな漫画だよメダリスト
フィギュアスケートの選手「結束 いのり」とそのコーチ「明浦路 司」とが、二人三脚でスケート界の頂点「オリンピック金メダリスト」を目指す話です。9巻でノービス(小学生)編が一段落し、現在は11巻まで刊行済み。ジュニア(中高生)編が月間アフタヌーンで連載中です。
2025年1月からアニメが放送されます、今一番熱い漫画でしょう、間違いなく。なんせあの米津玄師も主題歌を自ら提供しに行き、「全人類読んでください」と言っています、読まないわけにはいきませんね。
自分が初めて読んだのは9巻発売あたりででした。これまでの人生でフィギュアスケートに触れる機会は親がTVで流してただけで、
くらいしかスケートに関する知識が出てこない人間でしたが、今のところこの先も含めた人生で5指の好きな漫画に入るだろうなというくらい好きになった漫画でした。ちなみにワールドトリガーとメダリストで今2本です。知名度はどっちもかなりあるけどメダリストはまだまだもっともっと知られるべき漫画だと思う、メダリストと言って「あの漫画ね、面白いよね」と全員わかるぐらい知られるべき。
ここが好きだよメダリスト 2
内容についてもう少し詳しく。最初にブチ上げたポエム通りに、メダリストというのは選択の物語だと思っています。
(もう読んでくださったと思いますが)メダリストの1話は、いのりさんが「スケートをやること、やりたいと伝えることを選ぶ」、そして司先生が「いのりさんのコーチになることを選ぶ」ことで始まる物語です。そして、司先生がその選択をした理由は「自分には指導者がいなくて、見つけられなくて、選ばれなくて、スケートを続けられなかったから」。そもそも選択肢を選べなかった彼が、今いのりさんの選択肢となって、もう一度今度は二人で夢を追う選択をする。「人生ふたつぶん懸けて、叶えたい夢がある!」が1巻のキャッチコピーですが、ほんとに全部言ってるな。やっぱ読んでください。読めばわかるので。話を戻しまして、続く2話ではスケートの天才少女「狼嵜光」ちゃんに出会って、彼女を超える「金メダルを獲れる選手になる」ことを目標に選択します。そして3話では、ド直球にこの先には無数の「選択」がある、それを一つ一つ選んで目標に挑むのだ、という話をしているのです。
メダリストという漫画では、とにかく「何を選ぶか」という話が無数に出てきます。それは目標設定や決断の話だけでなく、アイススケートという競技を攻略するためにどのようなルートを選ぶ、どのような強みを伸ばし、弱みを補って金メダリストになるか、というところにも繋がってきています。
ここが私的に思うメダリストの面白いところで、「理論や技術、戦略を以て、どうすればできなかったことができるようになるのか、次の壁は何なのか」の部分が非常にしっかりと描かれ、そのためにどのような選択をするのかがとても面白く描かれているのです。成長に、勝ち負けに確かな説得力がある。しかもその上で同時に、それら全てが結実する氷上の戦いにおいては、それを実践するために何をしてきたかは関係なく、どのような演技ができたか、が全て。全ては氷の上に集約され、辿ってきた軌跡は関係なく、氷の上で奇跡を掴めるか、ただそれだけ。上でちょっと触れてるワールドトリガーの一番好きな言葉の1つに、太刀川さんの「気持ちの強さは関係ないでしょ」周りの言葉があるのですが*1、メダリストは本当にそれで、氷の上の勝負そのものに気持ちの強さは関係ないのです。
その上で、断言します、メダリストにおいて強い情動、パッションの描写は本当に素晴らしく心を撃ち抜いて来ます。なぜなら、氷の上の勝負はただの一つの結果であるうえで、氷の上の勝負に懸ける想いこそ、結束いのりさんの、明浦路司先生の強さの源であり、そして他も、全てのスケーター、コーチがそうであるという熱さが鮮やかに描かれているからです。
そう、メダリストにおける主役はいのりさんと司先生ですが、最大のライバルである光ちゃんと夜鷹純(光ちゃんのコーチ)を初め、この作品には他にも様々なスケーターとコーチが登場します。これからライバルとなるであろう者、先を往く者、あるいはかつて才能があると言われていた者、周りとできることに差ができてしまっている者、本当にたくさんの選手が出てきます。けれど今スケートの世界で「勝負」をしていて、そのために戦っているということはどの選手もコーチも同じであり、その上でそれぞれの戦略がぶつかり合ってただただ氷の上での評価に照らし合わせ勝敗が決まっているのだ、というところの描き方が素晴らしく誠実で、残酷で、熱い。
メダリストとは、氷と炎、理論と情熱、コーチと選手、対比し並列される二つの武器を選択し、銀板に閃く刃と演技にその全て賭けて戦う者たちの物語なのです。
また、メダリストの素晴らしい部分は、メダリストになるために越えなければならない壁は何もスケートの技術的な部分だけでなく、「その人をとりまく環境」であるという描写が度々成されるところにもあります。それこそ1巻の司先生がそうであり、スケートをできている、続けられることに対する功罪を正面から描いていることが、描写の説得力と面白さに繋がっているのです。
あと、単純に絵とセリフと構成がめっちゃ良いなと思います。これからやるアニメを観ろではなく漫画を読んでくださいというのは、躍動感と感動に溢れる絵の素晴らしさを体感してほしいから。1巻の117-118/119とか138-139とかめっちゃ良いな……と思った人、もう読むしかないです。この先もっともっと凄いのがたくさん出てきますよ。それでいて良い意味の「軽い」描写もすごくテンポよく読めて、月並みな言葉ですが「漫画が上手い」。
それとこういうのってやっぱりネタバレしたくないから「ほんとにもどかしいけど……読めばわかるから!」みたいなフワッとした感じになりがちで、そういうとき「まだ11巻しか出てないよ」というのも強い。11巻ってちょっと頑張れば全然買える範囲だし、なんなら12/26まで3巻まで無料やってるみたいです。とりあえずそこまででも読んでもらえればね。わかると思う。メダリストが今世界で一番熱い漫画だということが。
既読勢向け ここが好きだよメダリスト
ここからは私が好きなシーンを語るだけのコーナーをします、未読の人は読んだら戻ってきて一緒に頷いたりしてくれるといいね。
そもそもこの漫画、「全てが名言であり名シーン」みたいなところがあり、あらゆる箇所が好きの線上に乗っている上でさらにもっと好きなシーンがあるよ、といった感じの漫画で、ここに書いてるもの以外も本当に素晴らしいんですよね。他の漫画だと違国日記とかが近い感覚かも。選びたいシーンが多すぎて大賞1個(回まるごと)、優秀賞3個、特選5個とさせてください。
大賞
・9巻 score35「レベル4」
ノービス(小学生)編クライマックスの回。メダリストで一番の回を選ぶとなると、やはりどうしてもこれになってしまうな……。
115P
私は司先生の夢を終わらせたから
「わかってしまった」「わかってしまっていた」モノローグが、本当の意味で二つ分の人生を乗せて挑むいのりさんの覚悟が、美しすぎる。
120P
成功を願いすぎちゃだめだ ジャンプは想いの強さで跳べる魔法じゃない
これ、上で語ったメダリストの好きなところの結晶。描く「想い」のかたちがどういうものなのかが、その前の
全世界私に賭けろよ!
の熱さとの落差も相まって、メダリストで一番キまってて痺れる、カッコいいシーンだと思っています、もちろん合わせて元台詞の出てくる7巻 score26を読みましょう。情熱の迸る勢いそのままをぶつけるのではなく、積み上げてきた時間、技術の理解と再現こそが強さであり、軌跡の証明である。フィギュアスケートという競技への、全ての競技者たちへの最大のリスペクトだと思います、素晴らしすぎる。
121P
私はあの日の冷たい気持ちだけで強くなるのは終わりにしたんだ
2巻 score6とか、4巻 score15とか、6巻 score21とかあたりの「冷たい気持ち」の概念が、私はとても好きで、負の感情でだって人は成長できるし、努力できることを否定しない描き方がとても誠実だなと思います。その上で、その先へ挑むということ。ゼロの時間をプラスにするためではなく、一緒に積み上げてきたプラスの時間で勝つために。
優秀賞
・9巻 score36「目指す資格」160/161P 見開き
今、書いてて、涙出てきた、本当に
氷の上で光って儚く消える火花の奔流、その全てが一歩間違えば無かったかもしれない、司先生に出会えたからあった夢みたいな出来事で。ただ氷の上で踊れている1秒1秒の全てがたまらなく奇跡のような瞬間だという、あまりにも切実な幸福に満ち溢れている見開きが、本当に大好きです。その上で次ページの、だからこそ、今日辿り着いた現実は敗北で、悔しくて、一番しか欲しくなかったのにというところ、構成が見事すぎる。9巻、score33の氷の儚さ・残酷さも、score34の祈りと選択とその結果も、あまりにもメダリストの積み上げてきたものの本質が詰まりすぎているというか、これを描くためにここまで来た巻すぎる。なのにその先がまだまだもっと凄いものを見せてくれるだろうという期待は膨らむばかりなんですよね、凄い漫画だ……。
・7巻 score25「熱血」67P
……俺もあなたを「スケートをやるために生まれてきた」って世界中で言われる選手にするからね
これはもちろんその前のいのりさんの台詞と、score25のタイトルも込みでなんですけれど。星空の下、二人だけの何でもないけど穏やかでささやかで特別な時間に、司先生が自身の存在理由を改めて噛み締め、決意する。あと合わせて一巻139Pも読みましょう。私が個人的に夜の高速のSAの密やかな雰囲気とかが好きなのも含めて、とてもとても胸に染み入ったシーンです。
・11巻 score44「傷と鰭」119P
ねえ あなたがいない氷の上が 私が一番好きな場所になったよ
疑問も諦めも苦しみも怒りも全部を氷の上の「好き」に代えて、そして完走し微かに笑う岡崎いるかさん、あまりにも切なくて強くて愛しくて、一番好きだ……。あとこれちょっと本当に、運命だと思っていた運命が無くてもそれでも走って走って走って辿り着いたスタァライトifすぎるかも。
回想や語られる設定からわかるようにゼロどころかマイナスの痛みを識っていて鋭く研ぎ澄まされていて、それでも頂点に立ち先を往く女王である彼女が、その後の
お前が今こうやって傷ついてるやつの手を握ると安心を与えられるってわかってるのはさ 優しくされた経験があるからできるんだよ
の優しさの描写も含めて、ジュニア編になり変化と喪失も少しずつ経験していく中でのいのりさんの先達であってくれて良かったなと思います。彼女の未来にどうか幸福がありますように。
特選
・1巻 score3「たい焼きとケーキ」184P
あなた自身が自身の選択を軽んじてはいけないよ
メダリストにおける「選択」の唯一絶対の基準であり、自分で選んだものを信じて進むという強さを育むために必要だった言葉。自分のやっていることを信じて、責任をもって、そのときの自分を決して貶めないような行動をすること。肝に銘じて生きています。また、これを言った司先生自体が「自分の選択を信じられなかったから」という描写が後に度々出てくるのもあり、重くて、強い言葉。
・2巻 score4「名港杯 初級女子FS編(1)」 24P
私はスケートで勝ち負けをやりたいんだ 選手としてメダリストになりたいから
結束いのりさん、カッコよすぎる。それ以上の言葉が必要か?「私がスケートを特別にするんだ」もですけれど、上で魅力として挙げた「環境」の話であり、この覚悟と演技で以て一番最初の壁であった母親の不安を取り除くこの回、本当に良い。これを意識したうえで10巻 score50 155Pとか読みましょう、キマりすぎてる。
・3巻 score8「西の強豪」2-3P
その名がつくまでの何者でもない私たちは 未来への願いと憧れだけでこの薄氷を踏み切るんだ
メダリストの、何かを目指して走る者全てへのエールが込められた描写の数々が大好き。5巻 score18とかもそう、これも上で言った通りなんですけど、この冒頭の詩が一番記憶に残っています。というか冒頭の詩、どれもこれも「祈り」すぎてめちゃくちゃ情緒に来る、凄すぎ。
・4巻 score15「白猫のレッスン」184P
大丈夫 よかったよアンタ
こういう、言った方からすると何気ない言葉に救われる描写、多分全人類が好きだと思うんですけど私も特に大好きです。
・8巻 score31「魔法使い」56P
ウチと勝負しろ…狼嵜光…!
鹿元すず、アニメの声伊藤彩紗さんにしてくださってありがとうございます、背負うものに関しては香子とは真逆でありながらも、それこそが彼女の何よりの武器であるというバチバチに決まった本領発揮回であるscore30ですが(〝ジャンプは身軽な奴が強いんだ〟が好きです)その次の回で見せるこの牙、ほんとに最高。
予想はしてたけどめちゃくちゃ選ぶのが大変だった、本当に選びたかったシーンまだまだあります。全部読んで全部最高だ……と一緒になりましょう。お読みいただきありがとうございました。
*1:12巻収録